とんかつ通信とんかつ通信

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とんかつ通信(不定期刊行物) 第6号

編集・発行すずや店主(軽薄?敬白?)

<はじめに>

皆様こんにちは。いつも当店をご利用下さり誠にありがとうございます。この時代に星の数ほどある飲食店の中から、すずやを選んでくだっさったことに心から感謝申し上げます。
 皆様の期待を裏切らぬように頑張って参ります。どうぞ宜しくお願いいたします。

<最近思うこと>〜とんかつ屋に求められること〜

とんかつ屋には何が求められているのか?身近な物なのかご馳走なのか?はたまた、この問いかけ自体がナンセンスなのか?????  結論=ナンセンスである。

 現在の我が国では至る所で、「とんかつ」と名の付くものが実に様々な価格帯で販売されています。
 例えばスーパーマーケットでは揚げたてのロースカツが安いところでは1枚180円から、デパートの惣菜売場では著名なとんかつ店のものが同じく900円位まで売られています。これには5倍の開きがあります。
 同様に飲食店におけるとんかつ定食の値段も、例えば持ち帰り弁当の「ほっかほっか亭」での480円から、あとでご紹介いたしますが上野の老舗での 2800円位まで、やはりこれにも約5倍の開きがあります。(ラーメン、スパゲッティ、カレー・・・実は、あらゆる食事分野でこの”5倍の法則”が当てはまるかと思いましたが、ハンバーガー・・・これはマックとホームワークス(麻布や青山、広尾等にあるグルメバーガー店)では実に10倍、やはりマックは本当にお見事!)

 ところで、この価格の開きは一体何を意味しているのでしょう?果たして貧乏な人とお金持ちの人の選ぶ店の違いなのでしょうか、いやそうではないですよね。
 一体何の違いで同じ商品でもこのように価格帯の違いがあるのでしょうか?勿論「予算」という側面ははずせないにしてもよく考えてみると、同一人物でも実はお店を使い分けているのです。
 結論から先に言いますと実は私が学んだところでは「この価格の開きは、利用する側のT.P.O.S.の違いにある」という訳らしいです???・・・・・難しいですよね。

 T=Time=いつ、P=Place=どこで、O=Ocasion=どんな機会に、S=Style=どんなライフスタイルで、ということなのですが・・・つまりとんかつの場合を例にとれば、同じ一人の人がある日ある時、一人で家に帰ってとんかつを食べようと言うときは、作るのは面倒だし「そうだホカ弁で買っていこう」と480円のとんかつ弁当を買い、またある時、今度は田舎からお父さんが出てきて「何か都会のご馳走でも食べさせろ」と言われれば、「ヨーシッ」とグルメガイドでも見て、自分も一度行ってみたかった下町の老舗の洋食屋を案内する。
 そうですね「一人の人が時と場合でお店を使い分けている」と言うことなのではないでしょうか。
 従って、とんかつの場合もある時は日常的に腹にためるために、ある時は非日常的なご馳走として味わいながら美味しさを楽しむ・・・と言うことなのではないでしょうか。
 従ってTPOSが違えば価格が違う、価格が違えば利用する側のTPOSが違う、そして、無意識のうちに店を利用する回数も違ってくると言うことになるのではないでしょうか。

 一般に言われる“豊かさ”とはこの選択肢が多い社会のことと言い換えることができると思います。
 テイクアウトショップ、定食屋さん、駅ビルや地下街のおなじみチェーン店、ちょっとこだわりの街中の有名店、一度は行ってみたいあこがれの老舗名声店、等々様々なジャンルでこのような棲み分けが自然にできあがってきているように思います。

 私達も無意識にお店を使い分けている。これを店側がキチッと認識していないとお客様から見て「中途半端な店」と、思われてしまうのでしょう。さて、あなたにとってこのすずやはいつ誰とどんなときに使うお店でしょうか?お教え下さい。頑張ります。

 

<とんかつ屋が選んだとんかつ屋>〜本家ぽん多〜

今回お知らせする推薦店は東京、御徒町(おかちまち)にある”本家ぽん多”です。

 とんかつの名店が集まる場所、と言えばなぜか「上野」が思い浮かびます。
 末広亭近くの"双葉"、松坂屋裏にある"蓬莱屋"そしてこの"ぽん多"が東京下町の名店とんかつ店の三羽がらす(最近で言う三兄弟??)と言っても良いでしょう。

 想像するところ、昔(大正から昭和にかけて)の繁華街、つまり現在の下町(浅草、根岸、上野等)に連綿と流れる老舗洋食屋さんの流れを汲んでいるのかと思われます。
 これはつまり浅草、上野が東京屈指の繁華街としてその名を馳せていた頃に、流行っていた食ジャンルが"洋食"だったと言うことでしょう。
 今ほど飽食(豊食)ではなかったことも言うまでもありませんが当時、「ご馳走」と言えば「とんかつ」であった一つの時代のモニュメントなのかもしれません。

 今から100年後、新宿、渋谷、池袋が"ダウンタウン"と化し、将来の私達の子孫が「居酒屋の老舗はなぜ新宿、渋谷、池袋の旧繁華街に多いのだろう」・・なーんて考えるのかなー???

 本題に戻ります、この「創業明治38年登録・本家ぽん多」と一階入り口の真上に掲げられた原木を使った大きな風格有る看板が物語っているように、この店の「本家」を主張する意気込みには私のような同業者から見ても並々ならぬ執着が感じられます。
 10年近く前に昔の趣有る建物を取り壊し、今はモダンで立派な鉄筋のビルに生まれ変わっていますので、この古びた看板はいささか違和感を感じます。
 しかしそれだけに本当に本家なんだと言う誇り、プライドと、この物真似、パクリが当たり前のように横行する世知がない私達の業界にあって、かつて名店が故にその店名やメニューの模倣に泣かされた経験を察するのであります。(すずやも「元祖」等と書きたくなることがあります)

 さて、看板同様、建物にはいささか不似合いの原木でできたとても重厚な扉を開けて店に入ると、、手前にある6席程のカウンター越しに清潔感のあるキッチンと中央の浅い鍋でカツを揚げるご主人の姿が目に入ります。
 このご主人は決して愛想の良い方ではありませんが、その分大半がお身内と見受けられる他の従業員の方が気持ちよく案内やサービスをしてくれます。
 思えば業種は問わず、老舗名店の職人肌のご主人には愛想の良い方はほとんどおられないような気がします。調理に集中しているのですね。そもそも客への愛想などを気にしていたら本当によい仕事などできないからでしょう。名店に足を踏み入れた時、場数を踏んでいないとどうしたらよいのかわからないようなある種の居心地の悪さや、ほのかな緊張感は裏を返せばその店が本当の技術と本物の商品で勝負していることの現れでありましょう。

 さて、2階席は小上がりのみ20席程ですが、これもまたこざっぱりと品が良く無駄な物が何もありません。
 テーブル上に置かれたメニューと言うよりは7〜8品の品書き札には価格の表示はありません。(一人予算約3000円)
 「とんかつ」というメニューはなく「カツレツ」と書かれています。質問したところ、「これは料理法のこと(深い鍋で調理するいわゆるディープフライと一線を画していると思われる)です」とのことでした。全てに”本家”のプライドが感じられます。

 さて、メニューすべてがおすすめですがこのカツレツは勿論、海老コロッケが一押しです。
 ”本家”らしく金色の家紋が入った白い洋皿に盛られた糸のように細く切られたキャベツの付け合わせに、他店では見たことのない様な黄金色(白色に限りなく近い)に仕上がった細かい衣に包まれた柔らかいふかふかの歯ごたえ、中からとろけるように出てくるベシャメル(グラタンなどのホワイト)ソースの手間をかけたフカーイ味わいは、最高です。

*「本家ぽん多」台東区上野3-23-3 月・定休 電話03-3831-2351 

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第6号 –完–
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